Kyoto University Institute for the
Advanced Study of Human Biology

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2024.11.22

ATP動態から見る虚血後糸球体障害の病態解明 ―ミトコンドリア分裂抑制によるポドサイト保護―

急性腎障害(AKI)は慢性腎臓病や末期腎不全へ移行するリスクがあり、近年発症数が増加していることから、その病態解明と治療法の確立が急務になっています。

本研究概要図

京都大学医学研究科腎臓内科学 柳田素子教授(兼:高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)主任研究者)、京都大学医学部附属病院腎臓内科学 高橋昌宏医員らの研究グループは、腎臓が尿を濾過生成する「糸球体」のバリアを構成する細胞「ポドサイト」に着目し、虚血性AKIモデルにおけるポドサイトのATP濃度の低下とそれに伴うミトコンドリア障害がポドサイトのバリア機能を担う「足突起」の構造異常に関与している可能性を見出しました。また、同モデルにおけるミトコンドリアの過剰な分裂を抑えることでポドサイトの障害が緩和される可能性も見出しました。これまではAKIの病態は尿細管障害を中心に解析されてきましたが、本研究の結果は従来注目されてこなかった糸球体の細胞におけるAKIの病態解明を前進させ、多角的な観点からAKIの治療法の確立に寄与するものと考えられます。

本研究成果は、2024年11月22日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。


研究者のコメント

「かつては“治る病気”とされてきたAKIが長期的な腎臓の予後に影響を与えうることが明らかになり、AKI研究が大きく拡大しました。これまで尿細管障害を中心に解析されてきたAKIですが、我々の研究により、糸球体やポドサイトにもATP低下やミトコンドリア障害を介して障害が生じるのだということが示唆されたことで、今後AKI研究が別の方向にも拡がっていくことを期待しております。」(高橋昌宏)


研究プロジェクトについて

本研究は以下の資金の援助を受けて行われました(以下、研究開発代表者:柳田素子)。

  1. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)・革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「腎臓病において組織障害と修復を制御する微小環境の解明と医学応用」、腎疾患実用化研究事業「ヒト腎臓病における3次リンパ組織の役割の解明と治療介入対象としての蓋然性の検討」、健康・医療分野におけるムーンショット型研究開発等事業「炎症誘発細胞除去による 100 歳を目指した健康寿命延伸医療の実現」、橋渡し研究戦略的推進プログラム「アカデミア発先端医療技術の早期実用化に向けた実践と連携」、老化メカニズムの解明・制御プロジェクト 個体・臓器老化研究拠点
  2. 文部科学省科学研究費助成事業新学術領域研究・学術研究支援基盤形成「腎構成細胞「亜集団」の細胞老化が腎臓の老化と障害応答性に与える影響の解明」
  3. 文部科学省科学研究費助成事業新学術領域研究・学術研究支援基盤形成「先端バイオイメージング支援プラットフォーム」

書誌情報

Takahashi, M., Yamamoto, S., Yamamoto, S., Okubo, A., Nakagawa, Y., Kuwahara, K., Matsusaka, T., Fukuma, S., Yamamoto, M., Matsuda, M., & Yanagita, M. (2024). ATP Dynamics as a Predictor of Future Podocyte Structure and Function after Acute Ischemic Kidney Injury. Nature Communications. https://doi.org/10.1038/s41467-024-54222-0