2023.12.25
岩見 真吾 教授(名古屋大学大学院、京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)連携研究者)、西山 尚来 博士後期課程(名古屋大学大学院理学研究科)らの研究グループは、国立感染症研究所 感染病理部の鈴木 忠樹 部長らとの共同研究でオミクロン感染者の臨床検体を数理科学的に分析することで、粘膜表面における分泌型Ig-A(S-IgA)抗体の誘導が早い症例ほど感染性ウイルス排出期間が短くなる傾向を明らかにしました。
岩見 真吾 教授(名古屋大学大学院、京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)連携研究者)、西山 尚来 博士後期課程(名古屋大学大学院理学研究科)らの研究グループは、国立感染症研究所 感染病理部の鈴木 忠樹 部長らとの共同研究でオミクロン感染者の臨床検体を数理科学的に分析することで、粘膜表面における分泌型Ig-A(S-IgA)抗体の誘導が早い症例ほど感染性ウイルス排出期間が短くなる傾向を明らかにしました。The first few hundred調査 注2 と呼ばれる積極的疫学調査で得られたデータと試料を倫理審査委員会の承認を得て二次利用し合計122人のデータを分析すると、S-IgA抗体は鼻粘膜検体において他の抗体(IgG抗体やIgA抗体)よりもウイルス量や感染力を強く抑制する傾向も見られました。なお、新型コロナウイルスへの感染歴やワクチン接種歴がある感染者ほどS-IgA抗体の誘導時間が短くなることも明らかになりました。本研究は、呼吸器ウイルス感染症において分泌型粘膜抗体が感染性ウイルス排出を抑制する可能性をヒトで示した世界で初めての報告となります。
現在、mRNAワクチンによりCOVID-19による重症化や死亡のリスクは著しく低減されました。一方で、呼吸器ウイルスによるパンデミックでは、ヒト間伝播を制御・予防する課題が浮き彫りになりました。本研究成果により、粘膜免疫を標的とした次世代のワクチン開発が加速され、将来、呼吸器系ウイルスによるヒト間伝播を予防し、パンデミックを制御するための新たな戦略を与えることが期待されます。
本研究成果は、2023年12月19日午前5時(日本時間)付国際学術雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 」に掲載されました。
詳しい研究成果はこちら。
注1、分泌型Ig-A抗体:IgA(Immunoglobulin A;免疫グロブリンA)とは抗体の一種であり、特に、眼・鼻・喉や消化管などの外界と接する粘膜組織において、粘膜表面に分泌される多量体IgAのことを分泌型IgA(S-IgA)抗体と呼びます。
注2、The first few hundred調査:未知の病原体が出現した際には、リスク評価や隔離期間の決定など、公衆衛生対応を迅速に行う必要がある。The first few hundred調査(FF100)とは、感染症による公衆衛生危機発生時に症例定義に合致した数百症例程度から通常のサーベイランスでは得られない知見を迅速に収集するための臨床・疫学調査である。
Sho Miyamoto, Takara Nishiyama, Akira Ueno, Hyeongki Park, Takayuki Kanno, Naotoshi Nakamura, … Shingo Iwami, Tadaki Suzuki. (2023) Infectious virus shedding duration reflects secretory IgA antibody response latency after SARS-CoV-2 infection, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.2314808120