2023.11.22
名古屋大学大学院理学研究科のパク ヒョンギ 特任助教、京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)の 岩見 真吾 連携研究者(名古屋大学教授)らの研究グループは、北海道大学の山口諒助教との共同研究で、AI技術を活用することで、新型コロナウイルスの進化が潜伏期間や無症候率などの臨床的な症状やヒトの行動と複雑に関連していた可能性を明らかにしました。
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科のパク ヒョンギ 特任助教、岩見 真吾 教授らの研究グループは、北海道大学大学院先端生命科学研究院の山口 諒 助教との共同研究でAI技術を活用することで、新型コロナウイルスの進化が潜伏期間や無症候率などの臨床的な症状やヒトの行動と複雑に関連していた可能性を明らかにしました。武漢株、アルファ株、デルタ株、オミクロン株に感染した合計274人の臨床データを順番に解析していくと、変異株の出現に伴い、生体内におけるウイルス排出量のピークは増加し、早まる傾向(急性感染型 注3))に進化する様子が見られました。さらに、AI技術を組み込んだシミュレータを開発し、詳細に分析した結果、この進化の傾向は、変異株の出現に応じてヒトが感染症から身を守るための行動(自宅待機、3密回避、感染者隔離など)を克服するウイルスの生存戦略として成立したものである可能性が示唆されました。また、変異株の出現とともに短くなった潜伏期間や高くなった無症候率も、変異株を進化させる選択圧と密接に関連していることが判明しました。
これまでの研究では、抗菌剤や抗ウイルス薬が病原体進化を駆動してきたことが知られていましたが、本研究からは、ヒトの行動自体もウイルスの進化を理解する上で重要な原因であることが明らかになりました。新たな変異株の出現が懸念される中、本研究の成果およびAI技術を組み込んだシミュレータは、将来のウイルス進化を予測し、ポストコロナ時代の感染症対策を確立する上で重要な一歩となることが期待されます。
本研究成果は、2023年11月21日19時(日本時間)付国際学術雑誌『 Nature Communications 』に掲載されました。
詳しい研究成果はこちら。
注1、ウイルス排出パターン:上気道や唾液など臨床検体から計測されるウイルス量がどのように振る舞うかを指す。ウイルスのピーク量、ピーク時期、排出期間の長さなどが、パターンの形成に総合的に影響する。
注2、選択圧:進化を引き起こす原動力のこと。ここでは自然淘汰の強さと同義。
注3、急性感染型:宿主に感染してから、増殖スピードが早く、すぐに症状が現れるタイプのウイルス。対義語は持続感染型。
タイトル | Isolation may select for earlier and higher peak viral load but shorter duration in SARS-CoV-2 evolution |
著者 | Junya Sunagawa, Hyeongki Park, Kwang Su Kim, Ryo Komorizono, Sooyoun Choi, Lucia Ramirez Torres, Joohyeon Woo, Yong Dam Jeong, William S. Hart, Robin N. Thompson, Kazuyuki Aihara, Shingo Iwami & Ryo Yamaguchi | DOI | 10.1038/s41467-023-43043-2 |