Kyoto University Institute for the
Advanced Study of Human Biology

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2023.5.11

インフルエンザ重症度に関連する転移因子を特定

マルチオミクス解析で見えた「動く遺伝子」の新たな役割

京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)の Xun Chen 助教らの国際的な 研究グループ は、遺伝子・RNA・タンパク質などを一括して分析するマルチオミクス解析により、A型インフルエンザウイルス感染後の反応に寄与するトランスポゾン(動く遺伝子)を特定しました。本成果は、同じウイルスに感染しても個人間の重症度にばらつきが生じる要因を理解するうえで、貴重な手がかりとなります。

A型インフルエンザウイルスは、世界中で季節ごとに流行しますが、感染後の症状には幅広い個人差があります。同じウイルスに感染しても人によって重症度が異なる理由は、ほとんどわかっていませんでした。

研究グループは、その要因の一端を調べるために、トランスポゾンと呼ばれる塩基配列に注目しました。生命の設計図であるDNAにはタンパク質を作る情報を含んだ遺伝子が搭載されていますが、トランスポゾンはタンパク質をコードしていない配列の一種です。トランスポゾンはヒトゲノムの半分近くを占め、何の機能も持たないジャンクDNAと考えられていましたが、近年の研究によって、さまざまな生体反応に重要な役割を持つことが明らかになってきています。

研究グループは、A型インフルエンザウイルスに対する免疫応答にトランスポゾンがどのように関わっているかを調べるために、39人の血液から収集した免疫細胞をA型インフルエンザウイルスに感染させ、感染前と感染後のマルチオミックデータを比較解析しました。

用いたデータは、細胞内のすべてのRNAを定量するトランスクリプトーム解析や、ゲノムのアクセス性や生化学的修飾を検出するエピゲノム解析です。これらのデータを複合的に用いることで、従来のアプローチでは見逃されていた重要なトランスポゾンの振る舞いを見出すことができました。

さらに、このようなトランスポゾンのウィルス感染応答の個人差には、いくつかの転写因子が関わっていることがわかりました。研究グループは、これらの知見をもとに、感染後のウイルス量を予測する計算モデルを作成しました。ウイルス量は疾患の重症度と関連していることが知られています。あらかじめ重症度を予測できれば、それぞれの患者に合った最適な治療を行うプレシジョン・メディシン(精密医療)の実現にもつながります。

筆頭著者の Chen助教 は、次のように述べています。 「トランスポゾンとウイルス量の関連に因果関係があるのかということや、これらの変化が経時的なものなのかなど、まだ多くの疑問は残っています。しかし、これらの発見は、個人間の重症度のばらつきにトランスポゾンが果たす役割を理解するための重要な一歩です」

本研究成果は、2023年4月に『 Cell Genomics 』誌オンライン版に掲載されました。

論文書誌情報

雑誌名 Cell Genomics
タイトル Transposable elements are associated with the variable response to influenza infection
著者 Xun Chen, Alain Pacis, Katherine A. Aracena, Saideep Gona, Tony Kwan,Cristian Groza, Yen Lung Lin, Renata Sindeaux, Vania Yotova, Albena Pramatarova, Marie-Michelle Simon, Tomi Pastinen, Luis B. Barreiro and Guillaume Bourque
DOI 10.1016/j.xgen.2023.100292