Kyoto University Institute for the
Advanced Study of Human Biology

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2025.1.16

ヒトゲノムにおけるシス制御エレメントの大規模機能解析 -ゲノムに秘められた機能解読を目指して-

ヒトゲノム中には、「シス制御エレメント」と呼ばれるDNA配列が無数に存在し、近傍に存在する遺伝子の転写を制御しています。シス制御エレメント注1の変異は、ヒトの疾患や進化の要因と考えられており、ENCODE注2プロジェクトなどの国際コンソーシアムプロジェクトにより大規模に解析が進められています。しかしながら、無数に存在するシス制御エレメントの活性、あるいはその変異がおよぼす影響を網羅的に解析することは非常に困難でした。

ヒト染色体イメージ図

そこで、ワシントン大学Vikram Agarwal博士(現:米国サノフィ社)、Jay Shendure教授、カリフォルニア大学サンフランシスコ校 Nadav Ahituv教授、京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)井上 詞貴 特定准教授、張 子聡 同研究員らの国際共同研究グループは、大規模並列レポーター解析法(lentiMPRA)注3を応用し、ヒトゲノム中のシス制御エレメントを網羅的に同定しました。さらに、この解析で得られた大規模データを機械学習注4訓練に用いることで、任意の塩基配列情報からその制御活性の予測を可能としました。これらの成果により、これまで困難であった個人差や疾患が生じる分子メカニズムの理解につながることが期待されます。

本成果は、2025年1月15日(グリニッジ標準時)に国際学術誌「Nature」にオンラインで掲載されました。

研究者のコメント

近年、ヒトゲノムのほぼ全てが解読されていますが、明らかとなったDNA配列にどのような機能情報が隠されているのかは、未だ解明されていません。今回の論文は、ゲノムのDNA配列情報とその機能情報を直接結びつける成果であり、ヒト疾患や進化など様々な生命現象の理解に利用されることを期待しています。(井上 詞貴)

用語解説

 注1、 シス制御エレメント:エンハンサーやプロモーターなど、遺伝子の転写を制御するDNA塩基配列。

 注2、 ENCODE: The Encyclopedia of DNA Elements。米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)が支援し、世界5カ国が参加するヒトゲノム解析プロジェクト。

 注3、 lentiMPRA (lentivirus-based Massively Parallel Reporter Assay): 大規模並列レポーター解析法。シス制御エレメントの活性により転写されるランダム15塩基配列(バーコード)を次世代シーケンサーにより定量することで、数万種類のシス制御エレメントの活性を同時に測定できる技術。

 注4、 機械学習:コンピュータが大量のデータから学習し、データの背景にある規則性やパターンを発見する方法

書誌情報

Agarwal, V*., Inoue, F.*, Schubach, M., Penzar, D., Martin, B. K., Dash, P. M., Keukeleire, P., Zhang, Z., Sohota, A., Zhao, J., Georgakopoulos-Soares, I., Noble, W. S., Yardımcı, G. G., Kulakovskiy, I. V., Kircher, M., Shendure, J., & Ahituv, N. (2025). Massively parallel characterization of transcriptional regulatory elements. Nature. DOI:https://www.nature.com/articles/s41586-024-08430-9 *These authors contributed equally to this work