Kyoto University Institute for the
Advanced Study of Human Biology

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2024.11.5

性成熟期と成人期のエストロゲンが急性腎障害への感受性に与える影響    ―腎障害におけるエストロゲンの二面性―

思春期は、性ホルモンの分泌が急激に増え、性成熟が進むとともに、腎臓をはじめとする臓器の二次性徴にとっても重要な時期です。また、慢性腎臓病を有する小児では、思春期における成長の遅れが指摘されており、小児にとって慢性腎臓病の進行抑制は、重要な課題となっています。さらに、思春期に腎疾患の進行そのものが加速する現象が指摘されていました。

本研究イメージ図
Illustrated by トライス

これまで、成人期のエストロゲンは腎障害に対して保護的に働くことが、動物学的実験や疫学研究で報告されてきました。一方、慢性腎臓病注1を有する小児の患者さんでは、血中エストロゲン濃度注2の上昇する性成熟期(思春期)に腎疾患の進行が加速する現象が知られていましたが、その機序は不明でした。京都大学大学院医学研究科 腎臓内科学 柳田素子 教授(兼:高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)主任研究者)、北井悠一朗 同特定病院助教らの研究グループは、マウスを用いて性成熟と腎障害感受性の関連を調べました。その結果、性成熟後に卵巣摘出術を行った閉経モデルマウスの腎臓は虚血再灌流障害注3に対して影響を受けやすいのに対して、性成熟前に卵巣摘出術を行なった性成熟欠如モデルマウスの腎臓は、虚血に対して抵抗性が高いことを見出しました。エストロゲンは、性成熟期には腎障害の進行を促進する一方、成人期には腎障害に対し保護的に働くことが示唆されました。この研究成果は、一生涯でのエストロゲンの二面性を動物実験により明らかにしたもので、性ホルモンと腎臓病に関する理解を深めるものです。

本成果は、2024年11月5日(米国東部時間)に国際学術誌「Kidney International」にオンライン掲載されました。


用語解説

注1、慢性腎臓病:何らかの原因で腎臓の機能が慢性的に低下する病気のことです。

注2、エストロゲン:卵巣から分泌される性ホルモンの一つです。

注3、虚血再灌流障害:腎臓の動脈静脈を一定時間遮断したのち、再度灌流させることで起こる腎障害のことです。


研究者のコメント

エストロゲンは虚血再還流障害に対して保護的であると一般的に考えられており、卵巣摘出の時期によって虚血再還流障害の表現系が変化することは予想外の結果でした。性差に関する腎疾患の研究は、最近盛んに行われていますが、性成熟期と成人期の性ホルモンの影響は一般的に分けて考えられてきませんでした。本研究は、性ホルモンと腎疾患の進展を考える上で、今後、重要な知見になると考えています。(北井 悠一朗)


研究プロジェクトについて

本研究は以下の資金の援助を受けて行われました (最下段以外の研究開発代表者: 柳田素子)。

  1. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)・革新的先端研究開発支援事業(AMED−CREST) 「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「腎臓病において組織障害と修復を制御す微小環境の解明と医学応用」、腎疾患実用化研究事業「ヒト腎臓病における3次リンパ組織の役割の解明と治療介入対象としての蓋然性の検討」、 健康・医療分野におけるムーンショット型研究開発等事業「炎症誘発細胞除去による100歳を目指した健康寿命延伸医療の実現」、橋渡し研究戦略的推進プログラム「アカデミア発先端医療技術の早期実用化に向けた実践と連携」、老化メカニズムの解明・制御プロジェクト 個体・臓器老化研究拠点
  2. 文部科学省科学研究費助成事業新学術領域研究・学術研究支援基盤形成「腎構成細胞「亜集団」の細胞老化が腎臓の老化と障害応答性に与える影響の解明」
  3. 文部科学省科学研究費助成事業・特別研究員奨励費「エリスロポエチンから細胞外マトリックスへ;腎線維芽細胞のスイッチ機構」 (研究代表者:北井悠一朗)

論文情報

Kitai, Y., Toriu, N., Yoshikawa, T., Sahara, Y., Kinjo, S., Shimizu, Y., Sato, Y., Oguchi, A., Yamada, R., Kondo, M., Uchino, E., Taniguchi, K., Arai, H., Sasako, T., Haga, H., Fukuma, S., Kubota, N., Kadowaki, T., Takasato, M., … Yanagita, M. (2024). Female Sex Hormones Inversely Regulate Acute Kidney Disease Susceptibility throughout Life. Kidney International. 10.1016/j.kint.2024.08.034.