2024.10.25
藤田みさお教授(CiRA上廣倫理研究部門、京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi))、八田太一講師(静岡社会健康医学大学院大学)、一家綱邦部長(国立がん研究センター生命倫理部)、大西達夫弁護士(MLIP経営法律事務所)は、新たに発表した論文において、エクソソーム注1)を用いた医療介入に関する規制を明確にする必要性を指摘しました。日本では特に、未だ確立された科学的エビデンスがないにもかかわらず、エクソソーム等は治療として既に提供されており、有害事象が生じても、適切な追跡ができない状況にあります。この論文の発表により、エクソソームに対する規制を明確化する必要性が広く認識され、患者の安全を守り、研究開発を促進するための規制整備が進展することを期待します。本研究成果は、2024年10月25日(日本時間)に国際学術誌『Stem Cell Reports』にオンライン公開されました。
現在、確立された科学的エビデンスがない細胞治療が高額で患者さんに提供されている実態が世界中で問題視されていますが、エクソソームを用いた医療介入も同様の課題を抱えています。エクソソームは細胞間の情報伝達を担う微小な粒子で、新しい治療法や診断法の開発可能性に注目が集まっています。しかし、これまでに厚生労働省が治療手段として承認したものはありません。
アメリカやEU(欧州連合)でエクソソームを治療目的で使用する場合、厳格な規制のもとに、生物製剤や薬剤としての各国政府による審査や承認が必要となります。こうした規制がある国でも、後述するようなエクソソーム治療を提供するクリニックが数十件ほど存在することが報告されています。
これに対し、日本では科学的エビデンスが確立されていない治療であっても医師の判断で提供することができます。ある調査会社による2023年の報告では、エクソソーム治療(ここではエクソソームを含有するとして幹細胞培養上清注2)を投与する場合を含みます。)を提供する医療機関も欧米に比べて格段に多く(669件)、主にアンチエイジングや育毛、疲労回復を目的に提供され、ウェブサイト上で「再生医療」をキーワードに用いる医療機関も7割を超えていました。2023年には患者さんが死亡した事例や、投与後にがんの増悪が見られたにも関わらず治療が続けられた事例が報じられました。しかし、明確な規制がない現状では、有害事象が発生してもそうした事例を正確に追跡、把握し、評価を行う仕組みがなく、患者さんの安全を確保できません。
このような事態を防ぐためには、患者さんを保護し、かつ研究の発展を妨げない規制の早急な整備が求められます。また、この問題は日本だけのものではありません。今回の論文においては、日本再生医療学会や日本細胞外小胞学会等による取り組みを紹介しつつ、国際幹細胞学会等が中心となり、患者保護のための注意喚起と各国における規制の明確化を推進するリーダーシップを発揮するよう求めました。そうした医学界の議論を踏まえて、日本におけるエクソソームを用いた医療介入に対する適切な規制のあり方を検討すべきであろうと考えます。
今後も引き続き、科学的エビデンスの確立されていない治療が患者さんに高額で提供されている問題について研究を深め、一般の方々にもこの問題を正しく理解していただけるよう、研究活動と情報発信に努めたいと考えています。
Fujita, M., Hatta. T., Ikka, T.,& Onishi, T. (2024)The urgent need for clear and concise regulations on exosome-based interventions. Stem Cell Reports. DOI: 10.1016/j.stemcr.2024.09.008