Kyoto University Institute for the
Advanced Study of Human Biology

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2024.7.5

多様なヘルパーT細胞と免疫疾患発症 – 免疫疾患の分子・細胞メカニズムの疾患横断的解析 –

7月7日は、年に一度織姫と彦星が天の川で会うことのできる七夕です。私たちのゲノム上でも、エンハンサーが必要なタイミングでプロモーターと“出会い”、遺伝子の発現を調節します。

本研究のイメージ図
Credit:Kanon Tanaka

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター理研-IFOMがんゲノミクス連携研究チームの小口綾貴子リサーチアソシエイト(京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)特任研究員)、小松秀一郎客員研究員、村川泰裕チームリーダー(京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)教授)らの国際共同研究グループは、ヒトの多様なヘルパーT細胞注1の遺伝子プロモーターやエンハンサー注2を1細胞レベルで調べることに成功し、多様なヘルパーT細胞がさまざまな免疫疾患の発症にどのように関与するのかを系統的に解明しました。
エンハンサーは、遺伝子遠方にあるDNA配列で、細胞種ごとに特異的に標的の遺伝子を活性化します。このエンハンサーに遺伝的変異が生じると、その標的とする遺伝子の“質”ではなく“量”が変化します。それが疾患の発症に関わることが最近の研究で分かってきています。 これまで研究チームは、エンハンサーが活性化した時に、その両端から合成されるエンハンサーRNAに着目し、ヒトのさまざまな細胞・組織でエンハンサー解析を行ってきました。しかし、これまでのRNA解析技術の限界から、1細胞レベルでの解析は十分に行われていませんでした。
本研究では、RNA転写時にその先頭に付加される特異的なシグナルを情報処理により高感度に捉えることにより、1細胞レベルでRNA転写開始点を特定し、プロモーターとエンハンサーの活性を同時に解析できる「1細胞エンハンサー解析法(ReapTEC法)」を開発しました。このReapTEC法を用いて、これまで報告されていなかったヒトのヘルパーT細胞の亜集団を見出し、それぞれの亜集団ごとのエンハンサー活性を調べました。さらに、すでに報告されている自己免疫疾患やアレルギー疾患に関連する遺伝的変異と亜集団ごとのエンハンサー活性を比較解析することにより、免疫疾患に関連した遺伝的変異を持つヘルパーT細胞エンハンサー(疾患エンハンサー)やその標的とする遺伝子を同定することに成功し、疾患に関わる新しい関連分子を同定しました。本研究成果は、自己免疫疾患やアレルギー疾患の新しい治療法の開発に貢献すると期待されます。

本研究は、科学雑誌『Science』オンライン版(7月4日付:日本時間7月5日)に掲載されました。

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用語解説

 注1、ヘルパーT細胞: 免疫応答に関与するリンパ球、T細胞の一種。抗原の情報をB細胞へ伝えて抗体の産生を誘導したり、免疫応答を誘導する液性因子を放出したりすることにより、免疫反応の司令塔として働く。

 注2、プロモーター、エンハンサー、エンハンサーRNA: プロモーターとエンハンサーはどちらも遺伝子発現を制御する機能を持つDNA配列。ゲノムDNA上で遺伝子の転写開始点の近くにあり、遺伝子を発現させる機能を持つ部分をプロモーターという。これに対し、遺伝子の上流や下流の遠方に位置し、遺伝子の転写効率を高める部分をエンハンサーという。活性化された状態のエンハンサーの両端からも転写が起きていることが分かっており、それをエンハンサーRNA (eRNA)という。


論文情報

Oguchi, A., Suzuki, A., Komatsu, S., Yoshitomi, H., Bhagat, S., Son, R., Bonnal, R. J. Pierre, Kojima, S., Koido, M., Takeuchi, K., Myouzen, K., Inoue, G., Hirai, T., Sano, H., Takegami, Y., Kanemaru, A., Yamaguchi, I., Ishikawa, Y., Tanaka, N., … Murakawa, Y. (2024). An Atlas of Transcribed Enhancers across Helper T Cell Diversity for Decoding Human Diseases. Science. 10.1126/science.add8394