2024.5.21
生殖細胞は遺伝情報の伝達を担う唯一の細胞です。一代限りで役割を終える体細胞とは対照的に、生殖細胞に起きた変異は次世代に継承され生物の進化の原動力になるとともに、その異常は不妊や遺伝性疾患の原因となります。こうした生物学的・医学的重要性にも関わらず、倫理的・技術的な制約、適切な研究方法の欠如から、ヒト生殖細胞の発生機構は多くの点が不明なままです。
京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点 (WPI-ASHBi) 村瀬佑介 特定研究員、横川隆太 博士課程学生(同大学大学院医学研究科)、斎藤通紀 ASHBi 拠点長/主任研究者(兼:同大学院医学研究科教授)らの研究グループは、ヒトiPS細胞から、始原生殖細胞 (Primordial Germ Cells, PGCs) 注1を経て、精子及び卵子のもととなる前精原細胞及び卵原細胞注2を大量に分化誘導する方法論の開発に成功しました。
本成果は、2024年5月20日(英国時間)に国際学術「Nature」にAccelerated Article Preview版で掲載されました。
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注1、始原生殖細胞(Primordial Germ Cells, PGCs):ヒト胚では受精後2週目に形成される、最も未分化な生殖細胞。
注2、前精原細胞及び卵原細胞:始原生殖細胞は、胎児精巣あるいは卵巣に移入し、前精原細胞もしくは卵原細胞に分化します。この分化は、エピゲノムリプログラミングとよばれる重要な現象を伴います。前精原細胞は精原細胞を経て精子に、卵原細胞は卵母細胞を経て卵子に分化します。
大学院生時代から足かけ8年続けてきたヒトPGCLCsの培養法開発が目指していたところまで来ました。コロナ禍にめげず、研究を続けられたのはラボメンバーや家族の協力があってこそでした。改めて感謝申し上げます。(村瀬佑介)
生殖細胞は世代を超えて継承される不滅の存在であり、その神秘性に魅了され研究を開始しました。この研究は、生命の根源を探求するものであり、科学的および哲学的にも非常に魅力的です。我々が開発した技術は、生殖医療の未来を大きく変革する可能性を秘めています。この成果を基に、さらなる研究を推進し、安全で効果的な治療法の開発に貢献できることを願っています。(横川隆太)
本研究は、JSPS 特別推進研究「ヒト生殖細胞発生機構の解明とその試験管内再構成」(研究代表者:斎藤 通紀)、JSPS 特別推進研究「試験管内再構成系に基づくヒト卵母細胞発生機構の解明とその応用」(研究代表者:斎藤 通紀)、その他ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム、Open Philanthropy Project の助成を受けて行われました。
Murase, Y., Yokogawa, R., Yabuta, Y., Nagano, M., Katou, Y., Mizuyama, M., Kitamura, A., Puangsricharoen, P., Yamashiro, C., Hu, B., Mizuta, K., Ogata, K., Ishihama, Y., & Saitou, M. (2024). In Vitro Reconstitution of Epigenetic Reprogramming in the Human Germ Line. Nature. 10.1038/s41586-024-07526-6.