Kyoto University Institute for the
Advanced Study of Human Biology

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2023.8.2

乳がん発生の進化の歴史を解明
ーゲノム解析による発がんメカニズムの探索ー

 がんは我が国を含む多くの先進諸国で死因の第一位を占め、我々の健康に重大な影響を及ぼす疾患です。近年、その発症は増加の一途をたどっており、我が国においては、男性の3人に一人、女性においても2人に一人が一生のうちにがんと診断されると推定されています。これまでの研究から、がんは細胞のゲノムに異常が生ずることによって惹起される疾患であることが明らかとなっており、近年のゲノム解析技術の革新を背景として、過去10年間に、ヒトの主要ながんについては、その発症に関わるゲノムの異常(ドライバー変異)が明らかにされています。しかし、その病態については、なお多くが解明されていません。がんは、ドライバー変異を獲得した一つの起源の細胞にはじまり、その子孫の細胞が次々に新たなドライバー変異を獲得することによって、数百億から数千億個からなる集団、いわゆる「がん」を発症すると考えられています。しかし、この最初の変異がいつ獲得されるのか、また、その最初の変異を獲得した細胞が、いつ、どのような変異を獲得して、最終的に「がん」と診断されにいたるのか、というがんの発症経過の全体像についてはよくわかっていませんでした。今回、京都大学大学院医学研究科・腫瘍生物学講座 小川誠司教授、同・乳腺外科 戸井雅和教授(現:都立駒込病院長)、同・次世代臨床ゲノム医療講座 西村友美特定助教、および京都大学白眉センター 垣内伸之特定准教授らを中心とする研究チームは、近年増加の一途を辿っている乳がんについて、思春期前後生じた最初の変異の獲得から数十年後の発症にいたるまでの全経過を、最先端のゲノム解析技術を駆使することによって、世界で初めて明らかにすることに成功しました。

 本研究は、東京医科歯科大学・M&Dデータ科学センター 宮野悟特任教授および慶應義塾大学・坂口光洋記念講座オルガノイド医学 佐藤俊郎教授らとの共同研究により得られた成果で、2023年7月26日に国際学術誌「 Nature 」にオンライン掲載されました。

詳しい研究成果はこちら

論文書誌情報

タイトル Evolutionary histories of breast cancer and related clones
著者 Tomomi Nishimura, Nobuyuki Kakiuchi, Kenichi Yoshida, Takaki Sakurai, Tatsuki R. Kataoka, Eiji Kondoh, Yoshitsugu Chigusa, Masahiko Kawai, Morio Sawada, Takuya Inoue, Yasuhide Takeuchi, Hirona Maeda, Satoko Baba, Yusuke Shiozawa, Ryunosuke Saiki, Masahiro M. Nakagawa, Yasuhito Nannya, Yotaro Ochi, Tomonori Hirano, Tomoe Nakagawa, Yukiko Inagaki-Kawata, Kosuke Aoki, Masahiro Hirata, Kosaku Nanki, Mami Matano, Megumu Saito, Eiji Suzuki, Masahiro Takada, Masahiro Kawashima, Kosuke Kawaguchi, Kenichi Chiba, Yuichi Shiraishi, Junko Takita, Satoru Miyano, Masaki Mandai, Toshiro Sato, Kengo Takeuchi, Hironori Haga, Masakazu Toi, Seishi Ogawa
掲載誌 Nature
DOI 10.1038/s41586-023-06333-9