Kyoto University Institute for the
Advanced Study of Human Biology

MENU

ニュース

2023.3.30

霊長類の多能性幹細胞から卵母細胞の誘導に成功

 京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点 (WPI-ASHBi) 斎藤 通紀 拠点長/主任研究者/教授(兼:同大学院医学研究科教授)と茂谷 小百合 同特定研究員らの研究グループは、霊長類であるカニクイザル注1の多能性幹細胞注2(ES細胞)から減数分裂期の卵母細胞を試験管内で誘導することに成功しました。

Graphical abstract. Credit: EMBO journal (2023)
10.15252/embj.2022112962

 ヒトの生殖細胞の発生機序を解明するために、試験管内で多能性幹細胞を生殖細胞(卵子または精子)へ分化させる培養系樹立を目指した研究が世界中で進められています。本研究グループでは、試験管内でヒト多能性幹細胞(iPS細胞)から卵原細胞注3を誘導する培養系を報告しています注4が、効率よく減数分裂期注5の卵母細胞注6へ分化を進める培養系の確立には至っていませんでした。
 この度、本研究ではヒトのモデルとしてカニクイザルES細胞より卵母細胞を誘導することに成功しました。カニクイザルES細胞由来の始原生殖細胞様細胞注7をマウス胎児の卵巣体細胞と凝集させたのち気相液相界面培養注8し、そこから得られる卵原細胞を新たにマウス胎児の卵巣体細胞と再び凝集させ、気相液相界面培養したところ、約4か月で減数分裂期の卵母細胞が誘導されることがわかりました。また、種々の解析により、当培養方法で得られた卵母細胞はサル胎児卵巣の卵母細胞と類似していることを示しました。この研究成果により、霊長類の雌性生殖細胞発生の分子機構の解明や、不妊症等の疾患機序の解明および治療戦略開発への応用が期待できます。
 本成果は、2023年3月16日に国際学術誌「The EMBO Journal」にオンライン速報版で掲載されました。

詳しくは こちら(PDFファイル) をご覧ください。

用語説明

注1 カニクイザル:サル目オナガザル科のサルで、学名はMacaca fascicularis。脳機能や寿命、妊娠・出産形式がヒトに類似していることから、ヒトのモデル生物として用いられる。

注2 多能性幹細胞:ほぼ無限に増殖する自己増殖能と、個体を構成するあらゆる細胞に分化する多分化能を併せ持つ細胞のこと。多能性幹細胞には、胚性幹細胞(Embryonic stem cells: ES細胞)や人工多能性幹細胞(induced Pluripotent stem cells: iPS細胞)がある。

注3 卵原細胞:胎児期のごく初期に見られる雌性生殖細胞のこと。減数分裂はまだ開始していない。

注4 詳しくはこちらをご参照ください。
  京都大学ホームページ・最新の研究を知る「ヒトiPS細胞からの卵原細胞の作出に成功しました」
  https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2018-09-28

注5 減数分裂期:生殖細胞で特異的にみられる細胞分裂様式のこと。分裂するごとに染色体数が半減する。

注6 卵母細胞:卵原細胞から分化し、減数分裂期へ移行した雌性生殖細胞のこと。減数分裂が完了すると卵子となる。

注7 始原生殖細胞様細胞:始原生殖細胞は、生殖細胞の起源にあたる細胞。雌雄どちらの細胞にも分化することが可能で、男性では前精原細胞に、女性では卵母細胞になる。始原生殖細胞様細胞は、試験管内で多能性幹細胞から誘導された、始原生殖細胞に非常に似た細胞のこと。

注8 気相液相境界面培養:マウスの卵胞誘導に用いる培養方法のこと。コラーゲンでコーティングしたフッ素樹脂の膜上で細胞塊を培養する。気相から酸素が、液相から栄養が供給される。 幹細胞から誘導された、始原生殖細胞に非常に似た細胞のこと。

論文書誌情報

掲載誌 The EMBO Journal
タイトル Induction of fetal meiotic oocytes from embryonic stem cells in cynomolgus monkeys
(カニクイザルES細胞を用いた減数分裂期卵母細胞の誘導)
著者 茂谷(形部)小百合、薮田幸宏、水田賢、加藤嘉崇、岡本郁弘、川﨑正憲、北村彩佳、築山智之、 岩谷千鶴、土屋英明、辻村太郎、山本拓也、中村友紀、斎藤通紀
DOI doi.org/10.15252/embj.2022112962