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2021.6.20

総説:マカクモデルにおける盲視の神経メカニズム

総説:マカクモデルにおける盲視の神経メカニズム

一次視覚野(V1)の損傷後に残存したサリエンシー(視覚刺激がボトムアップ性の注意を誘引する特性)が誘導する眼球運動。動画のフレームを例にしたサリエンシーモデル(左)と、眼球運動の軌跡(緑の矢印)を示したサリエンシーマップ(右)。

ASHBiの伊佐正 副拠点長/主任研究者/教授らが執筆した総説論文が、2021年6月19日に国際学術誌「Neuroscience」でオンライン公開されました。

概要

一次視覚野(V1)に損傷を受けた患者の中には、視覚的な認識を失っているにもかかわらず視覚運動能力を示す人がいます。この現象は「盲視」と呼ばれます。本研究では、主に私たちの研究室で行われた、片側のV1を損傷したマカクザルを対象とした一連の研究を紹介し、視覚運動の変換を支える神経経路と、盲視でも保持される認知能力を明らかにしています。

損傷した後、損傷の影響を受けた視野に向けて衝動性眼球運動を誘導する視覚が回復するまでには数週間かかります。盲視における視覚運動の処理には、外側膝状核に加えて、上丘から視床枕までの経路が関与しています。大脳皮質レベルでは、両側の外側頭頂間溝領域が衝動性眼球運動の制御に決定的に関与しています。これらの結果は、サルが盲視になっている間に視覚回路が大きく変化していることを示唆しています。これらのサルでは、Yes-No課題における行動に適応した信号検出理論に基づいて分析した結果、視覚的標的に対する感度の低下が示され、視覚的認識が損なわれていることが示唆されました。衝動性眼球運動の精度が低下し、意思決定が慎重に行われなくなり、ボトムアップの注意力が低下しているのです。しかし、フリービューイング課題(提示された画像を自由に眺める課題)におけるサリエンシー(視覚刺激がボトムアップ性の注意を誘引する特性)の検出、トップダウンの注意、短期の空間記憶、連合学習など、さまざまな認知機能は維持されています。これらの観察結果は、盲視が低レベルの感覚・運動反応ではなく、残存する視覚の入力がこうした認知機能に接続できることを示しています。以上の結果から、マカクザルの盲視モデルは、物体に対する何らかの「感覚」を経験するII型盲視患者を再現し、現象的な意識がなければ不可能だと私たちが素朴に考えている認知能力を誘導すると考えられます。

論文書誌情報

タイトル Neural Mechanism of Blindsight in a Macaque Model(マカクモデルにおける盲視の神経メカニズム)
著者 Tadashi Isa and Masatoshi Yoshida
掲載誌 Neuroscience
DOI https://doi.org/10.1016/j.neuroscience.2021.06.022