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診断困難な悪性リンパ腫病型における遺伝子異常を、末梢血を用いて高感度に検出

2021.1.12

診断困難な悪性リンパ腫病型における遺伝子異常を、末梢血を用いて高感度に検出

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概要

藤田医科大学医学部血液内科学の冨田章裕教授、名古屋大学医学部附属病院血液内科の島田和之講師、同大大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学の清井仁教授、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学の小川誠司教授、吉田健一助教らの研究グループは、血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)患者さんの血液中に存在するリンパ腫細胞由来のゲノムに着目して、同病型の詳細な遺伝子解析を行い、疾患を特徴付ける遺伝子異常を高感度に検出、同定することに成功しました。

悪性リンパ腫は血液がんの中で最も高頻度に生じる病気で、多彩な病型を持つことが知られています。IVLBCLは、まれな悪性リンパ腫の一病型で、一般的な悪性リンパ腫とは異なり、リンパ節の腫れ(腫瘤(しゅりゅう))を形成せず、リンパ腫細胞が全身の細い血管の中で増えることを特徴としています。悪性リンパ腫の診断は、通常、腫瘤を手術で採取する「組織生検」により行われます。しかし、IVLBCLでは、腫瘤が形成されないため、発熱や全身のだるさなどの症状から病気を疑った場合に、ランダムに皮膚や骨髄から組織を採取し、組織の中の血管内に少数のリンパ腫細胞を見つけることにより診断がつけられていました。また、採取した組織の中から十分なリンパ腫細胞を得られないことが、病気の原因を調べる研究の妨げとなっていました。

本研究では、IVLBCL患者さんの血漿(けっしょう)(血液の中の白血球、赤血球、血小板を含まない液体成分)中に、リンパ腫細胞から流出したゲノム(末梢血無細胞遊離(まっしょうけつむさいぼうゆうり)DNA: cfDNA)が、健康な方および一般的な悪性リンパ腫の患者さんよりも高濃度で存在することを確認し、cfDNAを用いて詳細なゲノム解析(網羅的(もうらてき)遺伝子解析)を行いました。検討された18名のIVLBCL患者さんから得られた血漿全てにおいて、cfDNAを用いた網羅的遺伝子解析が可能でした。また、IVLBCLの大部分のリンパ腫細胞で認められる遺伝子異常が明らかとなったほか、IVLBCLにおいて、がん細胞が免疫細胞からの攻撃を逃れる(免疫回避(めんえきかいひ))ために重要とされる遺伝子異常を高頻度に認めることが明らかとなりました。患者さんの血液を用いて腫瘍の存在を検出する方法を「リキッドバイオプシー(液体生検)」と呼びますが、IVLBCL患者さんの病気の診断および病気の原因を調べる研究のために、「リキッドバイオプシー」が特に有用であることが示されました。本研究の成果により、「リキッドバイオプシー」が、IVLBCLの診断を補助する手段として、今後の診療で応用されることが期待されます。また、IVLBCLにおける遺伝子異常の詳細が明らかとなったことで、新たな治療方法の開発に繋がることが期待されます。

本研究成果は、米国の学術ジャーナル「Blood」のオンライン版で、2020年12月24日午前8時(日本時間12月24日午後10時)に公開されました。

研究成果のポイント

  • 本研究では、血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)の血漿(けっしょう)(血液の白血球、赤血球、血小板を含まない液体成分)中に、リンパ腫細胞から流出する末梢血無細胞遊離DNA(cell free DNA; cfDNA)が高い濃度で存在することを発見し、cfDNAを用いてリンパ腫細胞が持つ遺伝子異常を高感度に検出、かつ詳細に解析できることを証明しました。また、この方法を用いることで、IVLBCLの遺伝子異常の特徴を明らかにしました。(図1)
  • IVLBCLの遺伝子異常は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の遺伝子異常に基づく分類の中の1つである「MCDタイプ」に類似し、さらに、IVLBCLにおいてPD-L1/PD-L2などの「免疫回避」に関わる遺伝子の異常が高頻度に認められることを明らかにしました。
  • 本研究の結果は、IVLBCLにおける「リキッドバイオプシー」の有用性を明確に示しており、この手法を用いた遺伝子解析が、IVLBCLの診断や治療効果の調べる際に有効な補助手段となる可能性を示しています。また、IVLBCLの遺伝子異常の特徴を明らかにしたことは、将来の病気の原因を直接標的とした治療方法の開発に重要な知見を提供するものと考えられます。

背景

IVLBCLは、一般的な悪性リンパ腫で認められるリンパ節腫大を形成せず、発熱や全身のだるさなど非特異的な症状により発症するため、血液専門医であってもしばしば診断が困難とされる悪性リンパ腫の一病型です。診断の遅れによる病気の進行が、患者さんの予後を不良とするため、早期診断を助けるための新たな病気の検出方法の確立が望まれてきました。また、これまで病気の原因となる遺伝子異常が十分に明らかにされておらず、病気の原因を直接標的にする新たな治療方法を考える上でも、病気をもたらす遺伝子異常の全体を明らかにする網羅的遺伝子解析が望まれてきました。

研究手法・研究成果

  • 1)IVLBCL患者さんの血液(血漿)中に、末梢血無細胞遊離DNA(cfDNA)が通常よりも有意に高濃度に存在し、その量は患者さんにおける病気の状態を反映することを確認しました
    18人のIVLBCL患者さんから採血を行い、血漿成分1mLから採取されるcfDNAは検討された8割以上の患者さんの血漿で100ng/mL以上の濃度でした。これは健康な方(数ng/mL)に比べて高く、また一般的な悪性リンパ腫(DLBCL)の患者さんと比べても高い値でした(図2A)。また、抗がん剤治療を実施したIVLBCL患者さんから、診療の経過とともにcfDNAを採取して、その濃度を測定したところ、病状に合わせてcfDNA濃度が変化することを確認しました。この濃度の変動は、悪性リンパ腫の病状を反映する指標の一つとして知られる血清LDH値と同様の変化を示すことを確認しました(図2B)。
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  • 2)IVLBCL患者さんから採取されたcfDNAを用いて網羅的な遺伝子変異解析を行うことができることを確認し、cfDNAにリンパ腫細胞から流出したゲノム遺伝子が効率よく含まれることを確認しました
    骨髄への病気の広がりが確認されている患者さんの骨髄検体から得られたゲノムDNAと、同じ患者さんから得られたcfDNAを用いて、網羅的に遺伝子変異解析(全エクソン解析)を行ったところ、cfDNAにIVLBCLにおいて骨髄検体よりも高い割合で変異が同定されたことから、cfDNAにはIVLBCLのリンパ腫細胞から流出したDNAが効率よく濃縮して含まれていることが確認され(図3A)、またそれにより多くの遺伝子変異がcfDNAを用いて検出することが可能になりました(図3B)。
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  • 3)IVLBCLに認められる遺伝子異常を明らかにしました。特に「免疫回避」に関係する遺伝子異常が高頻度に認められることは、IVLBCLの特徴と考えられました。
    cfDNAを用いた解析により検出された遺伝子異常の中には、「B細胞受容体/NFκB経路」に関わる遺伝子(CD79B, MYD88など)、「免疫回避」に関わる遺伝子(PD-L1 (CD274), PD-L2 (PDCD1LG2)など)、「ヒストン修飾やクロマチン構造」に関わる遺伝子(SETD1B, KMT2Dなど)や「細胞周期」にかかわる遺伝子(CDKN2A, TP53など)などが含まれていました。また、その他にも染色体のコピー数異常や構造異常が多数検出されました(図4A)。
    特にPD-L1遺伝子を標的とする構造異常を高頻度に認め (図4B)、この構造異常によりPD-L1蛋白の高発現により免疫回避をきたしている可能性を示しました(図4C)。
    IVLBCLに認められる遺伝子異常の組み合わせ(プロファイル)が、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の遺伝子異常による分類の亜型の一つである「MCDタイプ」に類似することを確認しました。
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今後の展開

本研究では、cfDNAを用いてIVLBCLの腫瘍細胞がもつ遺伝子異常を高感度に検出、そして詳細に解析することが可能であることを示しました。

IVLBCLは実際の診療において、しばしば診断が困難であるため、cfDNAを用いた遺伝子解析が、病気の診断における補助的な手段として応用されることが期待されます。また、採血によりcfDNAを調べることが出来ることは、骨髄検査や組織生検に比べて患者さんに負担の少ない方法であることも利点の一つです。この検査を経時的に行うことにより、病気の有無を現在よりも早い段階で発見できる可能性があり、今後の診療への応用が期待されます。また、病気の遺伝子異常の特徴を明らかにすることは、病気の詳しい理解に役立つばかりでなく、遺伝子の異常を直接標的とする治療法の開発を含め、新たな治療方法の考案に欠かせない情報となります。今回の研究で示されたIVLBCLにおける「免疫回避」との関連は、既に本邦で診療に使われている抗PD-1/PD-L1抗体医薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブなど)の治療への応用に繋がる可能性があり、将来の検討課題となると考えられます。

用語解説

  • (1)血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)
    悪性リンパ腫の一病型です。IVLBCLでは、腫瘍の細胞が主に細い血管の中に存在するため、病気の初期段階では、一般的な悪性リンパ腫の症状であるリンパ節腫脹(腫瘤(しゅりゅう))を認めません。発熱、全身のだるさ、息切れなどの症状で発症し、病気に特徴的な症状がないため、一般の悪性リンパ腫に比べて診断が困難です。かつては以下に示すびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の一亜型と考えられていましたが、2008年以降は、ひとつの独立した病型として考えられるようになりました。
  • (2)びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
    悪性リンパ腫の中でも最も頻度が高い病型で、全体の4割程を占めます。抗がん剤と抗体治療薬の組み合わせ(免疫化学療法)で、6割程度の患者さんに治癒を期待することができます。DLBCLは、発生する部位や分子背景の違いなどから、現在では更に細かく分類がされており、その違いごとに異なる治療方針が考案されています。
  • (3)ゲノムおよびDNA(デオキシリボ核酸)
    ヒトの身体を形作る細胞ひとつひとつには、それぞれ1セットの遺伝情報が含まれています。「DNA」はその情報のもととなる物質で、これが長くつながり、二重らせん構造をとっています。DNAのうちタンパク質を作るための遺伝情報をもったものを「遺伝子」、またDNAがが高次構造をとったものを「染色体」と呼びます。そして、遺伝子の情報全体を指して「ゲノム」と呼びます。悪性リンパ腫を含めた悪性腫瘍の原因は、遺伝子の異常がいくつか積み重なることであることがわかってきており、疾患ごとに異常が起こる遺伝子の種類や場所が異なります。
  • (4)末梢血無細胞遊離DNA(cell free DNA: cfDNA)
    通常、DNAは細胞の末梢血のなかの液体成分(血漿、血清)の中に、切れて短くなったゲノムDNA(cfDNA)が流れています。これは、身体の中の壊れた組織、細胞などから流れ出してくると考えられていますが、一部の悪性腫瘍の患者さんにおいては、がん細胞が壊れるなどして流出したがん細胞由来のDNAが正常のDNAに混ざって血液中に存在することが知られています。
  • (5)リキッドバイオプシー(液体生検)
    患者さんの血液やそのほかの体液を用いて、がんの検出や診断を行う新たな方法です。現在固形癌の分野においては、既に臨床応用が始まっています。本研究では、cfDNAを用いて遺伝子変異の解析を行い、cfDNAの中に存在する腫瘍由来のDNAを検出することで、身体の中に存在する腫瘍の検出や特徴の解析を行っています。
  • (6)LDH(乳酸脱水素酵素(にゅうさんだっすいそこうそ))
    LDHは肝臓の細胞や血液細胞に含まれる酵素のひとつです。血清中のLDH値は肝臓や血液の疾患で上昇することがあり、病気の程度としばしば相関します。悪性リンパ腫においては、病状が悪化している際に上昇を認め、病気の予後因子のひとつとなっています。病勢を反映する因子のことを、疾患の「バイオマーカー」と呼びますが、血清LDH値はリンパ腫の病勢を反映するバイオマーカーのひとつとされています。
  • (7)網羅的遺伝子解析
    次世代シーケンサーという新たな手法を用いて遺伝子異常を一度に大量に検出する方法です。全ゲノム解析ほか、本研究で行った全エクソン解析(ゲノムの中でも特に重要なタンパクをコードするエクソンのみに注目して解析する方法)、遺伝子パネル解析(疾患に特に重要と考えられる遺伝子に更に絞って解析を行う方法)などがあります。
  • (8)免疫回避
    ヒトの身体の中では、種々の免疫細胞が存在し、自分とは異なる「異物」が体内に入ると、それを排除するように働きます。「がん細胞」は、もとは正常であった自分の細胞が「遺伝子異常」などによって後天的に変化したものです。変化してしまった細胞は、通常は免疫力によって排除されますが、一部のがん細胞では、免疫細胞からの攻撃を逃れるための蛋白質(PD-L1, PD-L2など)を細胞表面に発現して、免疫細胞からの攻撃を逃れて生存しています。これを「免疫回避」と呼び、がんの病態を理解する上で重要な現象のひとつと考えられています。
  • (9)MCDタイプ
    DLBCLには多数の亜型を含んでいることが以前より指摘されており、近年それらの亜分類を遺伝子異常のパターンによって分類する試みがされています。2018年にSchmitzらは、遺伝子異常のパターンからDLBCLの一部を4つの病型に分類し、CD79BとMYD88の遺伝子変異を重複してもつ一亜型をMCDタイプとして分類しました。MCDタイプは、他のタイプに比べて比較的予後が不良の傾向であり、中枢神経原発リンパ腫、精巣原発リンパ腫、乳腺原発リンパ腫などは、いずれもこの亜型に分類される可能性が高いとされています。

文献情報

  • タイトル Frequent Genetic Alterations in Immune Checkpoint-Related Genes in Intravascular Large B-Cell Lymphoma
  • 発表雑誌名 Blood
  • 著者 Kazuyuki Shimada1,2,28, Kenichi Yoshida3,28, Yasuhiro Suzuki1,4, Chisako Iriyama1,5, Yoshikage Inoue3,6, Masashi Sanada7 Keisuke Kataoka3,8, Masaaki Yuge9, Yusuke Takagi10,11, Shigeru Kusumoto12, Yasufumi Masaki13, Takahiko Ito14, Yuichiro Inagaki15, Akinao Okamoto5, Yachiyo Kuwatsuka16, Masahiro Nakatochi17, Satoko Shimada18, Hiroaki Miyoshi19, Yuichi Shiraishi20, Kenichi Chiba20, Hiroko Tanaka21, Satoru Miyano21,22, Yusuke Shiozawa23, Yasuhito Nannya3, Asako Okabe24, Kei Kohno18,19, Yoshiko Atsuta25, Koichi Ohshima19, Shigeo Nakamura18, Seishi Ogawa3,26,27,29*, Akihiro Tomita1,5*, and Hitoshi Kiyoi1,29
  • 所属
    1. Department of Hematology and Oncology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
    2. Institute for Advanced Research, Nagoya University, Nagoya, Japan
    3. Department of Pathology and Tumor Biology, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan
    4. Department of Hematology, National Hospital Organization Nagoya Medical Center, Nagoya, Japan
    5. Department of Hematology, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Japan
    6. Department of Surgery, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan
    7. Clinical Research Center, National Hospital Organization Nagoya Medical Center, Nagoya, Japan
    8. Division of Molecular Oncology, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan
    9. Department of Hematology, Ichinomiya Municipal Hospital, Ichinomiya, Japan
    10. Department of Hematology, Toyota Kosei Hospital, Toyota, Japan
    11. Department of Hematology, Ogaki Municipal Hospital, Ogaki, Japan
    12. Department of Hematology and Oncology, Nagoya City University Graduate School of Medical Science, Nagoya, Japan
    13. Department of Hematology and Immunology, Kanazawa Medical University, Uchinada, Japan
    14. Department of Hematology, JCHO Kani Tono Hospital, Kani, Japan
    15. Department of Hematology and Oncology, Anjo Kosei Hospital, Anjo, Japan
    16. Department of Advanced Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
    17. Public Health Informatics Unit, Department of Integrated Health Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
    18. Department of Pathology and Laboratory Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
    19. Department of Pathology, School of Medicine, Kurume University, Kurume, Fukuoka, Japan
    20. Division of Cellular Signaling, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan
    21. Laboratory of DNA Information Analysis, Human Genome Center, Institute of Medical Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
    22. Laboratory of Sequence Analysis, Human Genome Centre, Institute of Medical Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan. 23. Department of Pediatrics, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
    24. Department of Pathology, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Japan
    25. Japanese Data Center for Hematopoietic Cell Transplantation, Nagoya, Japan
    26. Department of Medicine, Center for Hematology and Regenerative Medicine, Karolinska Institute, Stockholm, Sweden
    27. Institute for the Advanced Study of Human Biology (WPI-ASHBi), Kyoto University, Kyoto, Japan
    28. These authors contributed equally to this work.
    29. These authors equally supervised this work.
  • 責任著者
    冨田章裕(藤田医科大学医学部血液内科学主任教授)
    小川誠司(京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学教授)
  • DOI
    https://doi.org/10.1182/blood.2020007245