2021.11.2
三次リンパ組織は、慢性炎症に伴って形成される異所性リンパ組織で、高齢者の腎臓病では三次リンパ組織が形成され、炎症が遷延し、修復が遅延することが示されています。今回、京都大学大学院医学研究科 柳田素子 教授(兼:京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)主任研究者)、佐藤有紀 同特定助教(現在留学中)、李有鎬 同留学生らの研究グループは、秋田大学泌尿器科講座との共同研究で、生体腎移植を受けた214名の患者を対象に、プロトコル腎生検サンプル注1と腎予後を解析しました。その結果、移植腎の約2割で進行した「ステージⅡ三次リンパ組織」注2が形成していること、「ステージⅡ三次リンパ組織」群では、5年後の腎機能低下のリスクが非常に高く、従来の評価指標であるBanff分類注3とは独立した指標として有用であることを見いだしました。加えて、移植前にリツキシマブ注4を投与した群では「ステージⅡ三次リンパ組織」の形成は劇的に減少しました。「ステージⅡ三次リンパ組織」は、従来の方法では明らかにできない予後不良群を見出す指標として有用であることから、今後、この群に対する治療介入が腎予後の改善につながることが期待されます。
本成果は、2021年11月1日に米国の国際学術誌「Journal of American Society of Nephrology」にオンライン掲載されました。
三次リンパ組織は、慢性炎症に伴って後天的に非リンパ組織に形成される異所性リンパ組織です。柳田らは以前、高齢者の腎臓病で三次リンパ組織が形成され、炎症が遷延し、修復が遅延することを報告しています(<先行研究>1.参照)。一方、腎移植の予後はかなり改善したものの、依然として腎機能が低下する群が存在しますが、その予測は困難でした。移植腎で認められる慢性炎症は三次リンパ組織形成の引き金であることから、移植腎における三次リンパ組織の有無と、三次リンパ組織が将来の移植腎の機能に及ぼす影響を検討しました。
柳田らは秋田大学との共同研究にて、生体腎移植を受けた214名の患者を対象に、拒絶反応のない連続したプロトコル腎生検サンプル(図A: 移植後0時間、1ヶ月、6ヶ月、12ヶ月)を後方視的に解析し、三次リンパ組織の有無とそのステージ(柳田らが以前発表したステージ分類(<先行研究>2.参照)に応じて分類:図B、 C)を解析しました。
その結果、0時間後の生検で三次リンパ組織を示した患者はわずか4%でしたが、移植1ヵ月後の生検ではほぼ50%に増加し、12ヵ月後にはさらに増加しました(図D)。「ステージⅡ三次リンパ組織」の割合は徐々に増加し、12ヵ月後の生検では約2割に達しました。さらに、「ステージⅡ三次リンパ組織」が存在する群では、三次リンパ組織がない患者やステージⅠ三次リンパ組織がある患者に比べて、移植後の腎機能低下のリスクが高いことがわかりました(図E)。「ステージⅡ三次リンパ組織」は、尿細管炎および間質性線維化/尿細管萎縮といった組織障害と関連しており、従来の組織評価指標であるBanff分類とは独立して、移植腎の機能低下を予測可能であることがわかりました。加えて、移植前に免疫抑制剤であるリツキシマブを患者さんに投与することで、「ステージⅡ三次リンパ組織」の発生は8割以上抑制されました。
以上の結果から、三次リンパ組織は、臨床的に安定した移植腎にも高頻度に認められること、「ステージⅡ三次リンパ組織」は、Banff分類とは無関係に、進行性の腎機能障害と関連することが明らかになりました。
腎移植の全体的な予後は近年かなり改善してきましたが、中には腎機能が低下する群が含まれており、その群を予測・同定することが課題でした。本研究では、従来の組織評価指標であるBanff分類とは異なった視点から、腎機能低下の高リスク群を同定できる新たな指標「ステージⅡ三次リンパ組織」を見いだすことができました。本指標を呈するのは移植患者さんの5人に1人と高頻度です。この高リスク群を認識し、介入することによって、さらなる移植予後の改善が期待できます。
また、三次リンパ組織の発生とステージ進展を防ぐための治療戦略が、腎移植の長期成績の改善につながるかどうかについても、さらなる研究が期待されます。リツキシマブ投与が「ステージⅡ三次リンパ組織」の発生を顕著に抑制したことは、今後の臨床応用の観点からも重要です。
本研究は、下記プロジェクトの支援を受けています。
注1 プロトコル腎生検:移植腎の組織を評価するために、腎移植後、定期的に行う腎生検
注2 ステージⅡ三次リンパ組織:進行した三次リンパ組織。柳田らが先行研究2で提唱したステージ分類に基づく。
注3 Banff分類:移植腎の病理診断の国際基準
注4 リツキシマブ:抗ヒトCD20ヒト・マウスキメラ抗体からなるモノクローナル抗体(単一の抗体産生細胞から作成された抗体で、標的となる細胞の特定の目印のみに結合する)であり、抗がん剤・免疫抑制剤などとして使用されている。
図内:濾胞樹状細胞:リンパ組織内で B 細胞の生存・活性化を補助する間質細胞。
偶然の機会で京大に留学、移植腎臓における三次リンパ組織の臨床的な意味を証明することができました。学会で病理の先生から「毎日見ていたのが三次リンパ組織だったのですね。」という話を聞いた時とても嬉しかったです。個人的にも一年間素晴らしい人々と素晴らしい研究ができて本当に幸せでした。いつもそばで暖かくご指導してくださった柳田先生、佐藤先生、ラボの皆さんに御礼を申し上げます。(李有鎬 Yu Ho Lee)
これだけ医学・医療が発展した現代においても腎臓病の病態は不明な点が多く、その進⾏を⽌めることができません。我々は一連の研究で高齢者腎臓病において誘導される三次リンパ組織が幅広いヒト腎臓病においても誘導されること、そしてそれらが病態と密接に関わることを見出してきました。今後これらの知見をさらに発展させ、臨床に還元することができるよう引き続き研究に取り組んでいきたいと思います。(佐藤有紀)
タイトル | Advanced tertiary lymphoid tissues in protocol biopsies are associated with progressive graft dysfunction in kidney transplant recipients(プロトコル生検における高度な三次リンパ組織は腎移植患者の進行性腎機能障害と関連する) |
著者 | Yu Ho Lee, Yuki Sato, Mitsuru Saito, Shingo Fukuma, Masaya Saito, Shigenori Yamamoto, Atsushi Komatsuda, Nobuhiro Fujiyama, Shigeru Satoh, Sang-Ho Lee, Peter Boor Tomonori Habuchi, Jürgen Floege, and Motoko Yanagita |
掲載誌 | Journal of American Society of Nephrology(米国腎臓学会誌) |
DOI | https://doi.org/10.1681/ASN.2021050715 |