2020.10.26
ゲノムの機能、病気、進化などの高次生命現象の理解への貢献に期待
私たちのゲノム(DNAに含まれる全遺伝情報)のうちタンパク質をコードしている遺伝子DNAはわずか1.5%であり、98%以上はノンコーディングDNA(注1)が占めています。ノンコーディングDNA領域にはエンハンサー(注2)と呼ばれる遺伝子発現制御エレメントが点在しており、その変異は病気や発生異常の原因となります。しかしながら、広大なゲノムDNAの中からエンハンサーを同定し、その機能を解析する事は容易ではありません。近年、エンハンサーの機能を大規模並列的に定量解析できる新規技術、大規模並列レポーターアッセイ法 (MPRA)(注3)が開発され、ゲノム中のエンハンサー機能が急速に解ってきています。ところが、MPRAは本研究グループをはじめ複数の研究室で独立に開発されており、異なる実験デザインが採用されていました。本研究において同グループは、ベクター(注4)の構造、エンハンサーの位置、向き、長さなどの要素について様々な比較検討を行うことで、MPRAの洗練と確立を試みました。これにより、エンハンサーの効率的な大規模機能解析が可能となり、ゲノムの機能や、病気、進化などの高次生命現象の理解に繋がると期待されます。
本研究成果は、2020年10月12日に英国の国際学術誌「Nature Methods」に掲載されました。
注1) ノンコーディングDNA:真核生物ゲノムの大部分を占める、タンパク質をコードしないDNA領域。マイクロRNA、非翻訳領域や、プロモーター・エンハンサーといった転写制御エレメントなどが含まれる。
注2) エンハンサー:細胞内外のシグナルやストレスに応答し、転写因子の結合やヒストンの修飾を介して、遺伝子が「いつ」「どこで」「どのくらい」発現するかを厳密に調節するDNA配列。
注3) 大規模並列レポーターアッセイ法:Massively Parallel Reporter Assay (MPRA)。数千から数万のエンハンサーの機能を、1度の実験で大規模並列的に定量解析することが出来る新技術。15塩基対のランダム配列(バーコードと呼ぶ)をエンハンサーに連鎖させ、次世代シーケンサーを用いてバーコード転写量を定量することにより、これを実現する。
注4) ベクター:人工DNAを培養細胞などに導入するための分子生物学ツール。プラスミドやレンチウィルスなど。