研究概要

Mission

造血幹細胞

“幹細胞” は自己複製能と多分化能を有する特異的な細胞で、全身の細胞の恒常性を維持していますが、加齢とともに機能が変化してその恒常性が破綻し、様々な疾患の原因となることが知られています。
私たちのグループは、幹細胞の中でも特に、臨床応用されている血液の幹細胞(造血幹細胞)に着目して研究を行っています。 造血幹細胞は、たった1個の細胞の移植でもでも全身の血液系を再構築できる細胞ですが、加齢によりある特定の造血幹細胞が増加し(クローナル造血)、これが血液疾患などに関与することが知られています。しかし、そのメカニズムは明らかになっていません。
そこで私たちは、マウス・非ヒト霊長類・ヒトをモデルとして用い、様々な最先端計測技術を組み合わせ、 (1) 造血幹細胞の自己複製・多分化能のメカニズム、(2) 加齢に伴う造血幹細胞の機能低下、クローナル造血のメカニズム、(3)急性白血病・骨髄異形成症候群・リンパ腫などの血液疾患の病態を解明することを目指します。こうした理解を通じて、再生医療の進歩につながる幹細胞の維持・増幅技術の開発や、各種の病態の理解・解明、治療法の開発を目指しています。

研究主題1 造血幹細胞の自己複製・分化の機序解明

造血幹細胞は対称性分裂・非対称性分裂を介して自己複製・分化を繰り返し、造血システムの恒常性を維持していますが、その機序は不明です。その理由は、造血幹細胞の分裂をシングルセルレベルで追跡することが容易でないことが考えられます。我々はpaired-daughter cell assayとシングルセル移植を組み合わせることにより初めて生体内での対称性分裂と非対称性分裂をとらえることができました(下図)。現在、シングルセル移植及びシングルセル遺伝子発現解析などシングルセル解析を駆使し、対称性分裂・非対称性分裂を介して自己複製・分化の解明に取り組んでいます。モデルとしては、ヒト・サル・マウスを用いた研究を行っています。

研究主題2 造血幹細胞の加齢メカニズムの機序解明

加齢に伴い造血幹細胞自身も変化していくことが知られています。我々は、シングルセル移植を用い、マウス造血幹細胞が、加齢に伴い特異的に変化することを示しました(下図)が、その機能や意義は不明のままです。現在、シングルセル解析を駆使し、その解明に取り組んでいます。
さらにヒトでは、加齢に伴い特定の遺伝子変異(DNMT3A, TET2, SF3B1など)が健常者においても蓄積していきます。これは加齢に伴うクローナル造血と呼ばれていますが、クローナル造血からどのように造血器腫瘍などが生じるか機序は明らかになっていません。クローナル造血自体やそこから造血器腫瘍が生じる機序解明を目指しています。

研究主題3 造血器腫瘍の機序解明

我々は、RNAスプライシング分子の遺伝子変異などが骨髄異形成症候群などの血液疾患に関与することを示しました。これらの遺伝子変異は、造血幹細胞の加齢に伴い増加することが知られていることから、造血幹細胞の加齢が、造血器腫瘍の発症に関与していることが強く示唆されています。その造血幹細胞の加齢と造血器腫瘍の関連に関して機序解明を目指しています。

Interdisciplinary research『造血幹細胞をシングルセルレベルで視る』

造血幹細胞は、自己複製能と多分化能を有する未分化な細胞です。 自己複製能と多分化能を実験的に示すためにはシングルセル移植が必須ですが、簡単ではなく一般的には行われていません。本研究室では、シングルセル移植を日常的に行っており、シングルセル遺伝子発現解析を加え、造血幹細胞の機能メカニズムの解明を行っています。

1. マルチカラーセルソーター

BD Aria Fusionマルチカラーのセルソーターにより細胞をシングルセルレベルで分取することができます。搭載レーザーは 488 nm, 637nm, 405nm, 561nm, 355nm の計5本、最大18種類の色で分類が可能となっています。

2. シングルセル移植

マルチカラーソーターにてシングルセルソートを行い、シングルセル移植を行います。詳しいプロトコールは、文献を参照してください。

シングルセルソートされたマウス造血幹細胞とシングルセル移植後のキメリズムの動態

3. シングルセル遺伝子発現解析

Chromium Controller (10x Gemnoimcs) を用いることにより、シングルセル遺伝子発現解析が可能となります。

Chromium Controller

4. Paired-daughter cell解析

造血幹細胞を96-wellプレートにシングルセルソーティングを行います。その後、培養液中で1個の造血幹細胞から2個の娘細胞が産生された際、各々の娘細胞をマイクロマニピュレーターを用いて別々のウェルに移し、さらに各々の娘細胞のシングルセル移植を行います。これにより、娘細胞の生体における細胞機能を評価できます。

マウス造血幹細胞のpaired-daughter cell assay

5. マウス・サル・ヒトサンプルを用いた多角的な研究

滋賀医大との連携や京大病院との連携により様々なサンプルが入手可能となります。

 

6. 学際的な研究環境

ASHBiには、様々な分野の研究者が属しており、学際的な研究が可能となっています。特に数学分野の解析技術を用いた解析などを取り入れています。