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Research

嫌な仕事を「始められない」脳回路を解明

―行動開始を抑える「やる気ブレーキ」を発見―

私たちは日常生活の中で、クレーム対応の電話をかけるのを先延ばしにしてしまう、厳しい上司からの仕事になかなか手がつかない、といった「嫌な仕事」の一歩目が出ない場面をよく経験します。しかしながら、こうした現象の裏側にある脳の機能は明らかとなっていませんでした。

京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)雨森賢一 主任研究者、オ・ジョンミン 同研究員、雨森 智子 同研究員、高田 昌彦 ヒト行動進化研究センター教授(現、同名誉教授)、井上 謙一 同助教(現、名古屋市立大准教授)、木村 慧 東北大学助教らの研究グループは、マカクザルに報酬のみの課題とストレスの高い課題を行わせ、試行を「始めようとするかどうか」で行動開始の意欲を調べ、さらに脳の腹側線条体(VS: Ventral Striatum)1と腹側淡蒼球(VP:Ventral Pallidum)2を結ぶ神経経路(VS–VP経路)を化学遺伝学<注3>と呼ばれる手法で選択的に抑制し、ストレスによってなかなか始めることのできなかった課題が、ためらわずに行えるようになることを見出しました。これは、VS–VP経路が、ストレスがかかったときに行動開始の意欲を下げる「やる気ブレーキ」として働くことを示しています。この仕組みを理解することで、うつ病などで見られる自発的な意欲の低下の原因解明や、新しい治療法の開発につながる可能性があります。

本成果は、2026年1月9日午前11時(米国東海岸標準時、日本時間1月10日午前1時)に学術誌「Current Biology」にオンライン掲載されました。

用語解説

  1. 腹側線条体(VS: Ventral Striatum)大脳半球の深部にある「線条体」という領域の下側(腹側)に位置する部分で、報酬・動機づけ・学習などに関わる重要な領域です。腹側線条体の一部は「側坐核(nucleus accumbens)」としても知られています。 ↩︎
  2. 腹側淡蒼球(VP:Ventral Pallidum)淡蒼球の腹側に位置し、腹側線条体からの出力を受け取る領域です。VP は、大脳基底核の中でも報酬や動機づけに関わる主要な出力核のひとつであり、側坐核からの情報を受けて、視床・中脳・辺縁系・前頭前野など、さまざまな脳領域へと信号を伝えることで、中継および統合の役割を果たします。 ↩︎

書誌情報

Oh, J. N., Amemori, S., Inoue, K., Kimura, K., Takada, M., & Amemori, K. (2026). Motivation under aversive conditions is regulated by a striatopallidal pathway in primates. Current Biology. DOI: https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.12.035