関節リウマチの病変部に形成される免疫“拠点”
ー 幹細胞様ヘルパーT細胞の増殖とエフェクター型への分化 ー
関節リウマチは自己免疫疾患<注1>の1つであり、免疫系の異常が関節の腫れや痛みを引き起こします。これまでの研究において、関節内の滑膜組織<注2>に多く存在する末梢性ヘルパーT細胞<注3>(peripheral helper T細胞、Tph細胞)が関節リウマチの病態に重要な役割を果たしていることが明らかとなっていました。しかし、これらの細胞が関節内で維持・活性化される機構についてはわかっていませんでした。

京都大学大学院医学研究科 増尾優輝 博士課程学生、吉富啓之 准教授 (兼:京都大学大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi) 連携研究者)、上野英樹 教授(兼:WPI-ASHBi 副拠点長/主任研究者、京都大学免疫モニタリングセンター センター長)らの研究グループは、Tph細胞には幹細胞<注4>に似た性質を持つ細胞(幹細胞様Tph細胞)と活性化した性質を持つ細胞(エフェクターTph細胞)の2種類の異なった細胞が存在することを明らかにしました。幹細胞様Tph細胞は、三次リンパ構造<注5>を拠点として存在し、自らを複製し増殖する能力を有しました。さらに幹細胞様Tph細胞の一部はエフェクターTph細胞へ分化<注6>し、“拠点”から出て炎症に関与する細胞と共存していました。幹細胞様Tph細胞は関節リウマチ滑膜でのTph細胞の維持と活性化に関わっており、新たな治療標的となることが期待されます。
本成果は、2025年8月15日午後2時(アメリカ東海岸時、日本時間8月16日午前3時)に学術誌「Science Immunology」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
ここ数年で可能となった最新の解析方法を用いて、関節リウマチの病変部で起こる免疫反応の新たな一面を明らかにすることが出来ました。幹細胞様の細胞は自己複製と分化する性質を持つことから、病気の根源の原因となる可能性があり、この成果が新規の治療戦略開発の手がかりとなることを期待しています。検体を提供いただいた患者さん、研究チームの協力、家族の支えに心から感謝いたします。(増尾優輝 博士課程学生)
用語解説
- 自己免疫疾患:本来であれば外敵から身を守るために機能する免疫系が、異常を起こして正常な細胞を攻撃し、組織の炎症や臓器の破壊が起こる疾患です。
- 滑膜組織:関節の内側にある膜状の組織で、関節の滑らかな動きに重要です。関節リウマチでは、炎症のため分厚くなり、多数の免疫細胞が見られるようになります。
- 末梢性ヘルパーT細胞:炎症が起こっている組織において、B細胞による抗体産生を促進するヘルパーT細胞の一種です。PD-1という分子を強く発現する一方、CXCR5という分子を発現しない特徴を持ちます。
- 幹細胞:自分自身を複製する能力と、他の細胞に分化する能力を併せ持つ特殊な細胞です。
- 三次リンパ構造:慢性的な炎症に曝された組織に形成される、リンパ組織に似た免疫細胞の集簇構造です。
- 分化:細胞が成熟し、特定の機能を有する過程です。
書誌情報
Masuo, Y., Murakami, A., Akamine, R., Iri, O., Uno, S., Murata, K., Nishitani, K., Ito, H., Watanabe, R., Fujii, T., Iwasaki, T., Nakamura, S., Kuriyama, S., Morita, Y., Murakawa, Y., Terao, C., Okada, Y., Hashimoto, M., Matsuda, S., Ueno, H., & Yoshitomi, H. (2025). Stem-like and effector peripheral helper T cells comprise distinct subsets in rheumatoid arthritis. Science Immunology. https://doi.org/10.1126/sciimmunol.adt3955