難病・視神経脊髄炎 (NMO)の病態解明へ前進
-中枢神経系に集積するCD21lo B細胞サブセットを特定
京都大学大学院医学研究科 免疫細胞生物学 上野英樹教授(兼・同高等硏究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI―ASHBi))、臨床神経学 高橋良輔教授(研究当時、現:総合研究推進本部 特定教授)、 錦織隆成 同博士課程学生(研究当時、現:医学部附属病院 特定助教)らの研究グループは、視神経脊髄炎(NMO)*1という免疫が関与する神経難病において、病気の発症や進行に関わるB細胞に注目しました。NMOでは、自己抗体*2という物質が神経を傷つけることが知られていますが、その抗体を作る元となるB細胞*3が中枢神経でどのように変化するかは分かっていませんでした。本研究では、病気の急性期にある患者さんの髄液*4と血液を調べ、高性能なフローサイトメーターを用いて免疫細胞を詳しく分析しました。その結果、急性期の患者さんでは、特定のB細胞の集団(CD21lo B細胞*5)が髄液中で増えており、これらが抗体を作る細胞に変化している可能性があることを見出しました。また、このB細胞の変化は、病気の再発のしやすさとも関係していました。これらの発見は、NMOの新たな治療標的としてCD21lo B細胞に着目する有用性を示すものです。
本研究成果は、2025年8月2日に英国の国際学術誌「Brain」8月号に掲載されました。
研究者のコメント
視神経脊髄炎という難病の“しくみ”に迫りたいという思いから、急性期の髄液サンプルを中心に研究を進めました。末梢血だけでなく髄液においても、自己抗体をつくる免疫細胞のサブセットが大きく変化していることが明らかになりました。急性に発症する希少疾患を対象としたため、限られたデータと向き合う困難もありましたが、得られた知見が新たな治療の手がかりとなり、患者さんの未来に繋がることを願っています。(錦織隆成)
用語解説
*1 視神経脊髄炎(NMO):視神経や脊髄を中心に炎症が起こる自己免疫疾患で、再発を繰り返すことで視力障害や歩行障害などが生じます。多くの患者の血液中で、後述のアクアポリン4を標的とする自己抗体が確認され、NMOの診断や病態において中心的な役割を担うとされています。
*2 自己抗体:自分の体の正常な組織を誤って攻撃する抗体のことです。
*3 B細胞:免疫細胞の一種で、抗体を産生する能力を持ちます。抗原を認識して抗体産生細胞(ASCs)に分化することで、免疫応答に重要な役割を果たします。
*4 髄液: 中枢神経(脳と脊髄)を満たしている透明な液体で、脳や脊髄の保護や代謝産物の除去に関与しています。免疫細胞や炎症マーカーの分析により、脳内の炎症状態を評価できます。
*5 CD21lo B細胞: B細胞の中でもCD21という分子の発現が低い(lo: low)細胞群を指します。活性化状態にあり、自己免疫疾患で増加することが知られており、抗体産生細胞の前駆体とも考えられています。NMOの血液や髄液中で増加しています。
書誌情報
Nishigori, R., Hamatani, M., Yoshitomi, H., Kimura, K., Takata, M., Ashida, S., Fujii, C., Ochi, H., Takahashi, R., Kondo, T., & Ueno, H. (2025). CD21lo B cell subsets are recruited to the central nervous system in acute neuromyelitis optica. Brain. [DOI: 10.1093/brain/awaf086]