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Research

関節リウマチにおける霊長類特異的な新規サイトカインを同定

関節リウマチは免疫細胞が自己の関節を攻撃して炎症や関節破壊をきたす疾患です。これまでの研究から関節に存在する滑膜という組織の中に存在するヘルパーT細胞<注1>が、関節リウマチの病態に重要な役割を果たしていることが明らかになっていましたが、関節内においてどのように炎症に関わるのか詳しくはわかっていませんでした。

本研究概要図: IGFL2遺伝子は比較的ヒトに近い霊長類に認められるサイトカインです。関節リウマチの滑膜組織でTph細胞はB細胞の抗体産生に関わるだけでなくIGFL2を産生することで、T細胞分化やマクロファージの活性化に関わります。

京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi) 村上晃規 特定助教、吉富啓之 医学研究科免疫細胞生物学准教授 (兼:WPI-ASHBi 連携研究者)、上野英樹 WPI-ASHBi副拠点長/主任研究者(兼:医学研究科免疫細胞生物学教授、京都大学免疫モニタリングセンターKICセンター長)、松田秀一 医学研究科整形外科学教授らの研究グループは、関節リウマチ患者さん由来の滑膜組織の解析により、霊長類以降に出現した進化的に新しいサイトカイン<注2>IGFL2を介してヘルパーT細胞が関節リウマチの炎症を制御していることを明らかにしました。さらにこのIGFL2は、関節リウマチ患者さん、特に重症度の高い患者さんの血液中で増加することが認められました。IGFL2は、関節リウマチに対する新しいバイオマーカーや治療標的となることが期待されます。

本成果は、2025年8月1日午後2時(現地時間、日本時間8月2日午前3時)に学術誌「Science Immunology」にオンライン掲載されました。

研究者のコメント

ヒト検体を用いたシングルセル解析を行うことで、ヒト関節リウマチの病態に関わるヘルパーT細胞特異的なサイトカインを同定し、その機能を明らかにすることができました。進化的に新しい遺伝子ということで、動物モデルの解析からは明らかにできない知見を解明できたと考えています。今後は臨床応用に向けた研究を行いたいと思います。(村上晃規)

用語解説

  1. ヘルパーT細胞:免疫の司令塔のような白血球の一種で、感染や異物に対してB細胞に抗体を作るように指示したり、他の免疫細胞を助けたりする重要な役割を持ちます。
  2. サイトカイン・ケモカイン:さまざまな細胞から分泌され、特定の細胞の働きに作用するタンパク質です。ケモカインもサイトカインの一種で、細胞を特定の場所へ移動させる働きを持っています。

書誌情報

Murakami, A., Akamine, R., Tanaka, S., Murata, K., Nishitani, K., Ito, H., Watanabe, R., Fujii, T., Iwasaki, T., Masuo, Y., Iri, O., Nakamura, S., Kuriyama, S., Morita, Y., Murakawa, Y., Terao, C., Okada, Y., Hashimoto, M., Matsuda, S., Ueno, H., & Yoshitomi, H. (2025). Human CD4+ T cells regulate peripheral immune responses in rheumatoid arthritis via insulin-like growth factor like family member 2. Science Immunology. https://doi.org/10.1126/sciimmunol.adr3838