機能から見るトランスポゾン新分類法の開発
古代にゲノムへ取り込まれたウイルス由来遺伝子の機能解明を目指して
トランスポゾン<注1>は古代にウイルス感染などによりゲノム上に組み込まれた塩基配列で、ゲノム上で増殖と移動を繰り返し、挿入された近傍の遺伝子発現を変化させ、新しい形質を生み出す可能性を持っています。このことから、トランスポゾンは進化の原動力の一つと考えられています。しかしながら、その特有の反復配列の多さから、トランスポゾンの詳細な解析は技術的に困難でした。
京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)Xen Chen 助教(研究当時、現:中国科学院上海免疫感染研究所 主任研究員)井上 詞貴 特定准教授、Guillaume Bourque 特別招へい教授(マギル大学 教授)らの研究グループは、霊長類の進化の過程でトランスポゾンの遺伝子制御活性がどのように変化し、ヒトゲノムへと組み込まれたのかを解明するため、系統解析とゲノムの種間の保存性に着目した新しい分類法を開発しました。さらに、大規模並列レポーター解析法(MPRA法)<注2>を用いて新しい分類法によって見出された配列の遺伝子制御活性を網羅的に評価しました。これらの成果により、トランスポゾンと進化の関係性への理解が進み、さらに霊長類特有の形質獲得<注3>への手掛かりとなることが期待されます。
本成果は、2025年7月18日午後2時(米国東海岸標準時、日本時間7月19日午前3時)に国際学術誌「Science Advances」にオンラインで掲載されました。
研究者のコメント
ヒトゲノムの配列が明らかとなって長い年月が経ちますが、その機能の多くはまだ明らかとなっていません。特に、今回着目したトランスポゾンはヒトゲノムの進化において重要な働きをすると考えられており、この分野の研究が進展することで、ヒトゲノムの機能がより明確になることを期待しています。(井上 詞貴)
用語解説
- トランスポゾン:ゲノム上を転移、すなわち移動して増殖してきた塩基配列で、ヒトゲノムの半分近くを占めている。転移因子とも呼ばれる。
- 大規模並列レポーター解析法(MPRA法):シス制御エレメントの活性により転写されるランダム15塩基配列(バーコード)を次世代シーケンサーにより定量することで、数万種類のシス制御エレメントの活性を同時に測定できる技術。
- 形質:生物が持つ性質や特徴のこと。生物学的には、子孫に遺伝する性質・特徴を指す。
書誌情報
Chen, X., Zhang, Z., Yan, Y., Goubert, C., Bourque, G., & Inoue, F. (2025). A phylogenetic approach uncovers cryptic endogenous retrovirus subfamilies in the primate lineage. Science Advances. https://doi.org/10.1126/sciadv.ads9164
リンク
ニュース(マギル大学): https://www.mcgill.ca/newsroom/channels/news/ancient-viruses-our-dna-may-hold-clues-what-makes-us-human-366069
ニュース(中国科学院上海免疫感染研究所): https://mpweixin.qq.com/s/Hro2gNPJx7W_1CJx9dojxw