急性肝障害はどのような人が急性肝不全に進展しやすいのか? ~AI技術を駆使した新たな分類と予測~
急性肝障害の原因はウイルス性肝炎や薬物性肝障害など様々ですが、急性肝障害の一部は肝機能が急激に低下し急性肝不全1へと進展し、その一部は内科治療に反応せず意識障害を伴う昏睡型2に重症化します。急性肝不全昏睡型の救命率は約30%に留まるため肝移植3が必要となりますが、急性肝障害から急性肝不全昏睡型へ数日で急速に進展することもあり、緊急性が非常に高い疾患です。しかし、内科治療への反応性は予測不能であり、高次医療機関や移植施設※4への搬送基準は明確ではありませんでした。

九州大学病院肝臓・膵臓・胆道内科/九州大学大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授らの研究グループは、名古屋大学大学院理学研究科の岩見真吾教授(兼 九州大学マス・フォア・インダストリ研究所 客員教授、理化学研究所数理創造プログラム 客員研究員、京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点 連携研究者)らとの人工知能(AI)技術を臨床研究に応用した共同研究により、急性肝障害患者は治療効果(治療反応性)により3つの集団に分類できることを新たに発見しました。さらに、初診時の血液検査などの臨床情報を用いることにより、患者がどの集団に属するのかを予測するAIモデルの開発に世界で初めて成功しました。これにより、どのような人が高次医療機関や移植施設への搬送が必要な重症患者になり、どのような人が重症化せずに回復できるのかを早期に判断することが可能となります。
現在、急性肝障害の高次医療機関への明確な搬送基準が存在しない中、本研究成果は、内科治療への反応性を予測した結果に基づき、最適な医療資源の配分を可能にするものです。臨床医学と情報数理科学を組み合わせた異分野融合研究である本研究の成果は、急性肝障害における個別化医療の確立に向けた重要な一歩となることが期待されます。
本研究成果は米国の雑誌「PNAS Nexus」に2025年2月6日(木)(現地時間)に掲載されました。
用語解説
- 急性肝不全:正常な肝臓が急速に障害され(急性肝障害)、肝機能が低下した結果、生命を維持することが困難になった状態。 ↩︎
- 昏睡型:肝臓は体内の有毒物質を分解する働きをしており、肝不全により貯留した有毒物質が脳機能を低下させ、意識が障害された状態を肝性昏睡と呼びます。昏睡度はⅠ度からⅤ度までありますが、Ⅱ度以上の肝性昏睡を伴う急性肝不全を昏睡型、Ⅰ度以下が非昏睡型と定義されます。 ↩︎
- 肝移植:脳死と判定された方からの臓器提供による脳死肝移植と、健康な方から肝臓の一部を取り出して移植する生体肝移植の2種類があります。2010年に改正臓器移植法が施行され、脳死ドナー数は増加傾向にありますが、未だに全国で約100例程度であり人口当たりの提供数は米国の約1/50に留まります。生体ドナーは親族に限定されており、適格なドナーがいないケースも多くあります。近年の肝移植後5年生存率は約80%です。 ↩︎
- 移植施設:全国で23施設が日本臓器移植ネットワークに登録されています。 ↩︎
書誌情報
Yoshimura, R., Tanaka, M., Kurokawa, M., Nakamura, N., Goya, T., Imoto, K., Kohjima, M., Fujiu, K., Iwami, S., & Ogawa, Y. (2025). Stratifying and predicting progression to acute liver failure during the early phase of acute liver injury. PNAS Nexus. https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgaf004.