
三浦 智行
Position | 京都大学医生物学研究所准教授 |
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Research Field | ウイルス学 |
着任日 | 2020年4月1日 |
研究概要
霊長類モデルを用いた感染症の病原性解明と予防・治療法の開発
エイズはHIV-1というウイルスによって起こる病気です。1982年にアメリカで初めて病気が発見されて以来、今ではアフリカ、インド、東南アジア、中央アメリカからカリブ海を中心に世界中に広がっており、日本でも患者が増えています。エイズは我々の体を細菌やウイルスから守る「免疫」と呼ばれる仕組みを壊す悲惨な病気です。
はしかやインフルエンザのようにウイルスで起こる病気にはワクチンを作るのが良い予防方法です。HIV-1に関しては、ウイルス(電子顕微鏡でないと見えない小さな粒子です)の表面に生えているタンパク質を「免疫」に覚えさせると我々はウイルスにかからなくなると考えられています。
ワクチンは製品になる前に本当に予防出来るか、予想もしない問題を引き起こさないかを調べなくてはなりませんが、そういうテストには実験動物を使います。HIV-1はヒト以外に感染しないのでワクチンを動物でテスト出来ません。興味深い事にHIV-1と近縁なウイルスがサルから見つかっています(SIVと呼ばれています)。このSIVとHIV-1の遺伝子を組み換えてHIV-1の表面に生えているタンパクを持ったSIVを作る事ができます(SHIVと呼ばれています)。このSHIVはサルに感染するので、HIV-1のワクチンを作った時にそのワクチンが効くのかサルでテストする事が出来ます。私たちは世界に先駆けてSHIVを作り、サルに感染する事を報告しました。
エイズがどんな病気かを正しく理解する事が予防や治療の為には必要ですが、動物モデルはそのために無くてはならないものです。私たちはSIVやSHIVを使って何故・どのようにして病気が起こるのかを調べています。これまでにSIVやSHIVの中で激しい病気を起こすものや感染するけれども病気を起こさないものがあることが分かってきました。これらの違いはなぜ起こるのか、ウイルスの遺伝子を比較したり別のウイルスの遺伝子と取り替えたりして調べています。また、ウイルスが体の中の何処で、どれくらい増えているか、特別な細胞がウイルスに壊されているのかと言った疑問を、病気を起こすウイルスと起こさないウイルスの間で比較して調べています。

略歴
1988年 東京大学大学院農学系研究科 畜産獣医学専攻 博士後期課程修了.1988年より京都大学ウイルス研究所助教となる.1998年より京都大学ウイルス研究所助教授となる.2002年より京都大学ウイルス研究所准教授となる.2016年にウイルス研究所と再生医科学研究所が統合してウイルス・再生医科学研究所となり、2022年より医生物学研究所に名称変更し現在に至る。
論文
Matsuura, K., Yamaura, M., Sakawaki, H., Himeno, A., Pisil, Y., Kobayakawa, T., Tsuji, K., Tamamura, H., Matsushita, S., and Miura, T.: Sensitivity to a CD4 mimic of a consensus clone of monkey-adapted CCR5-tropic SHIV-MK38C. Virology, 578: 171-179, 2023.
Pisil, Y., Yazici, Z., Shida, H., and Miura, T. Is SARS-CoV-2 Neutralized More Effectively by IgM and IgA than IgG Having the Same Fab Region? Pathogens, 10: 751, 2021.
Pisil, Y., Yazici, Z., Shida, H., Matsushita, S., and Miura, T.: Specific substitutions in region V2 of gp120 env confer SHIV neutralisation resistance. Pathogens, 9: 181, 2020.
Ishida, Y., Yoneda, M., Otsuki, H., Watanabe, Y., Kato, F., Matsuura, K., Kikukawa, M., Matsushita, S., Hishiki, T., Igarashi, T., and Miura, T.: Generation of a neutralization-resistant CCR5 tropic SHIV-MK38 molecular clone, a derivative of SHIV-89.6. J. Gen. Virol., 97: 1249-1260, 2016.
Matsuda, K., Inaba, K., Fukazawa, Y., Matsuyama, M., Ibuki, K., Horiike, M., Saito, N., Hayami, M., Igarashi, T., and Miura, T.: In vivo analysis of a new R5 tropic SHIV generated from the highly pathogenic SHIV-KS661, a derivative of SHIV-89.6. Virology, 399: 134-143, 2010.